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オーガスタ・ナショナルに女性メンバー誕生

マスターズ・トーナメント (The Masters Tournament) で知られる オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ (Augusta National Golf Club) は アメリカ・ジョージア州、オーガスタにある超名門プライベート・クラブである。クラブの人種差別的で女性蔑視的なポリシーは度々非難の的になってきたが、そのオーガスタ・ナショナルに 二人の女性メンバーが 2012年になって初めて誕生した。

一人は コンドリーザ・ライス (Condoleezza Rice)、ジョージ・ブッシュ政権下で 国家安全保障問題担当大統領補佐官(第 20代)さらに、国務長官(第 66代)などを歴任した人で 下のユーチューブを見て "あー" この人かと思う人も少なくない政界の大物である。もう一人は ダーラ・ムーア (Darla Moore) というサウスカロライナ州出身の財界人で、投資会社のレインウォーター (Rainwater, Inc.) のパートナー(同社創設者婦人)という肩書きの女性である。

ご存知の方も少なくないと思うが、オーガスタ・ナショナルは 典型的なアメリカのオールド・ファッションな名門クラブの一つで、女性メンバーは受け入れず、1990年に、初めて黒人のメンバーを一人だけ受け入れたという経緯がある。また、メンバーシップの応募はしておらず、メンバーの推薦のみによってメンバーを選出するのが会則だ。ビル・ゲイツ (Bill Gates) やジャック・ウェルチ (Jack Welch) 他、錚々たる顔ぶれが メンバーに名を連ねているが、その多くは大企業のトップ または トップを務めた経験者、政治家、その他 著名人のようだ。かつて、National Council of Women's Organizations 会長のマーサ・バーク (Martha Burk) に 女性蔑視と非難された時に 当時のクラブの会長であった ジョンソン氏(Hootie Johnson)は 以下のようにコメントし その非難を 一蹴する態度を見せた。

Our membership is single gender just as many other organizations and clubs all across America. These would include junior Leagues, sororities, fraternities, Boy Scouts, Girl Scouts, and countless others. And we all have a moral and legal right to organize our clubs the way we wish.

自由と平等 (freedom and equality) を 叫んできたアメリカではあるが、その憲法で 結社の自由 (freedom of association) の権利を 一方では 与えているから、その権利を 主張している人達が沢山居ると言うことだ。賛否両論あるが、そうした中で守られた 古き良き (?) ゴルフのスタイルや伝統(例えば、時代錯誤的なドレス・コード)があることも事実であり、そうしたものを守るために 同じ考え方をする人が集まってクラブを作り、そのルールを決めるといった自由の権利を(それを差別と言う人も居るだろうが)奪うことは出来ないという考え方にも 一理はあるだろう。しかし、その牙城とも言える オーガスタ・ナショナルでの今回のポリシー変更が アメリカのプライベート・クラブの運営方針に与える影響は大きいはずだ。

アメリカのプライベート・クラブ

一般的に、プライベート・クラブの多くは(例外はあろうが)そのメンバーの数が 18ホールのゴルフ・コースに対して 200人、多くても 300人程度であるから、本当の意味でのプライベート・クラブのメンバーの数は 多くとも 全米で 100万人から 150万人程度で、ゴルファーの約 25人に 1人だけが プライベート・クラブのメンバーと言うことになる。

つまり、アメリカでプライベート・クラブのメンバーとして ゴルフが出来る人は一部の恵まれた人達だけと言うことだ。そして、そのメンバーになれば 週末のゴルフは仲の良い仲間と一緒に 望む時間帯に 素晴らしいコンディションのゴルフ・コースで スムースな(毎ホール 待たされるようなことない)ラウンドを 楽しむことが出来る。ティー・タイムの確保に翻弄され、1ラウンド 5時間以上のラウンドを 覚悟しなければならない ミュニシパルのパブリック・コースとは 雲泥の差がある。

プライベート・クラブは 通常 何々カントリー・クラブ、または、ゴルフ・クラブといった名前が付くが、前者の場合は 社交クラブの意味合いが高くなり、ゴルフ以外のアクティビティー(例えば、プールやテニスなど)に係わる施設やレストラン、バー、各種 エンターテイメント(例えば、ショー)などのサービスが充実しているクラブの可能性が高い。

いずれにしても、プライベート・クラブ、特に、名門と呼ばれるクラブのメンバーになる道のりは それなりに険しいものだ。ある程度以上の財力が必要になることもさることながら、多くの場合、複数の紹介状、社会的な地位、そして、望ましい個人のバックグラウンド(学歴やキャリアといった 履歴書的なもの)の評価に加えて、ゴルフの知識とエチケットも要求されるからだ。

まず、財力と言う意味では、イニシエイション・フィーと呼ばれる入会金(入学金のような性格のもの)とボンド、即ち、預託金が数千ドルから数万ドル(高級なクラブは10万ドル以上)必要であるが、譲渡可能な会員権ではなく、投資目的で会員になる人はもちろん居ない。ビジネス上の理由や社会的なステータスの獲得を目的にメンバーになる人も居ようが、殆どの人はゴルフが大好きな人達である。また、プレーをしようが、しまいが支払わなければならない年会費が 一般的には 5,000ドル から 10,000ドルと高いこと、加えて、ミニマムとよばれる一定期間に最低額の支出を要求されるのが一般的で(休会手続きをすることで出費をミニマムにすることは 出来るだろうが)クラブを利用しないのに会員になることは極めて不経済なのだ。

さらに、メンバー所有のプライベート・クラブでは その運営が赤字になったり、クラブハウスの改築などの一時的な支出が必要になった場合、メンバーの一人一人に かなり高額な(アセスメントと言う名の下に)費用負担を課せられることもある。ただし、メンバー所有のクラブは ノンプロフィット・オーガニゼーションだから、クラブ運営に必要な費用負担のみが年会費として徴収されると言う考え方が原則で 名門クラブだからといって 必ずしも年会費が高い訳ではない。そうした意味で オーガスタ・ナショナルは(マスターズをホストすることで巨額な収入があるから)イニシエーション・フィーも 年会費も 極めて 低いと言われている。

歴史ある名門クラブでは 社会的な地位、そして、その人のバックグラウンドとゴルフの素養(知識とエチケット)などについて 特に 厳しい評価がなされるのが一般的である。メンバー所有のプライベート・クラブには メンバーシップ・コミッティー(委員会)と呼ばれるものがあり、その委員がメンバーの候補者、及び、その家族と 面会をすることになる。アメリカでの経験が短い日本人がメンバー所有の名門クラブへの入会を希望する場合は 語学のハンデはもちろんのこと アメリカの文化や風習に馴染みのないこともあり(社会的地位や名声などが著しく高くない限り)断られる可能性が高いと考えた方が良いだろう。

どのようなクラブにせよ 一般的にプライベート・クラブではエチケット、特に、ドレス・コード、携帯電話の使用(カリフォルニアでは 例外的に 携帯の使用に対する規制が緩やかなクラブが多いが)と スピード・プレーに厳しいのが普通で、クラブのルールの詳細は 会則 (Bylaw) に明記されている。通常、会則に反したメンバーには厳重注意がなされるが、何度か注意を受けたにも拘らず、それに従えないメンバーは退会させられることもある。とは言え、一方で、お金さえあればメンバーになれる、また、会則も然程厳しくないプライベート・クラブもあるから、クラブを選ぶ時は(名門であればベターと言うことではなく)クラブのメンバーのタイプや雰囲気、会則などが 自分や自分の望むクラブ・ライフのニーズに合致しているかを考慮する必要があると言うことだ。

時代と共に女性の立場は大きく変わってきたが、それでも プライベート・クラブのメンバーは 基本的に男性が殆どで、女性はその妻か ファミリー・メンバーの一人としてクラブの施設を利用するのが一般的で(女性ゴルファーの割合が低いこともあるが)女性で個人会員になっている人は極めて少ない。アメリカ社会は 女性の力が強く、平等で差別を嫌う社会だと考えている人も居ると思うが、歴史ある名門クラブであればあるほど、男尊女卑、人種差別的な(多くの場合、暗黙の)決まりが 今でも まかり通っているのが実態である。例えば、メンバーシップが女性に与えられないとか、週末の朝のティー・タイムが女性に与えられていないクラブも少なくない。

女性蔑視だけでなく、その封鎖的な色彩は 人種差別的なクラブ運営を招いているケースも多かった。黒人や黄色人種、また、場合によってはユダヤ人など、ワスプ (WASP) と呼ばれる人達が中心の名門クラブのメンバーにはマイノリティーが極端に少ない、場合によっては、まったく居ないと言うことも良くあったことで、そうした色彩は今でも 残っている。その結果でもあろうが、財力のあるユダヤ人によって ユダヤ人のためのクラブといったものがニューヨーク近郊などには 幾つも造られた。

最後になるが、実は、女性メンバーだけのゴルフクラブが存在するのだ。アメリカではないが、カナダのトロントに Ladies Golf Club of Toronto というクラブがある。とは言え、女性メンバーだけのゴルフクラブと言うのは他に聞いたことがないし、そんなものが出現することが この先 あるとは考え難いが、そうしたことを考えている女性が居ることは間違いのないことのようだ。

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