クラブの溝|グルーブとバックスピン
♦ クラブの溝の形状と性能
右のイラストは 大雑把に 二つのタイプの溝形状の違いを説明するものであるが、1985年に PING が角溝(Uグルーブ)のアイアン、ピン・アイツーを発売するまで クラブフェースの溝は 基本的に 全て V グルーブだった。しかし、その後は スピン性能に優れる U グルーブのクラブが一般的になり、ウレタン・カバー、マルチ・レイヤーのゴルフボールの普及と共に ショート・アイアンのスピン性能は飛躍的に向上した。
一方、そんな スピン性能に優れる U グルーブの出現を見た協会 (USGA) は 高性能な U グルーブの使用を規制することになるが、ある意味、適切なプロセスを経ずに 一方的に ピンのクラブをルール違反扱いした結果、訴訟になって敗訴し、ピンのアイアンだけが 特別なルール上の扱いを受ける というような(法廷闘争の結果がルールに反映されるという)異常な状況も生まれた。
♦ スピン性能の違い
基本的に、U グルーブは V グルーブに比べ二点、即ち、(1) 溝の容積、(2) 溝のエッジの角度と鋭さ、という点で異なるもので、それが スピン性能に大きな違いを及ぼすという理屈である。当初は 刃物のような鋭利なエッジを禁止すると共に、クラブフェースの溝は グルーブ幅が 0.035インチ(0.9mm)以下、隣接する溝の端と端との間隔は グルーブの幅の三倍以上の 0.075インチ(1.905mm)以上、溝の深さは 0.020インチ(0.508mm)以下でなければならないと定められていた。
バックスピンは ボールとクラブ・フェースとの間に水があると非常にかかり難くなるが、溝の総体積が大きな U グルーブのクラブでは その水がグルーブによって瞬時に外に出されるため そうした状況になる ラフからのショットのスピン量の低下を防ぐことが出来る。従って、グルーブの幅と深さ、また、密度を小さくすれば ラフからのショットにおけるスピン性能は一気に低下するのだ。その点に着目したのが、前述の溝規制の (1) のポイントであった。
♦ 2010年のルール変更
しかし、そんな U グルーブに係わる規制は 後日 不十分だと言う判定がなされ、2010年に 規制はさらに厳しく また より定量的なものに変更された。その要旨は 右図のとおりで (1) エッジの角が丸みのある(エッジの R が数値でより定量的に定められた)ものになったことと、(2) 溝の容量が小さく(以前のルールに比べ ほぼ 70%に)なったことである。基本的に、2010年以降に製造されたロフトが 25度以上のクラブのグルーブは この新ルールに適合するものになっていると言う。つまり、比較的 新しいクラブを使っている人は 当該ルールに係わる違反は 一切気にする必要のないものである。
一方、新ルール適合の溝でもスピン量が減らない工夫として多くのウェッジ・メーカーが採用している方法がマイクロ・グルーブ (micro groove) というフェース面の機械加工である。右の写真はタイトリストのオフィシャル・サイトに載せてあるボーケイ・ウェッジのフェース面の機械加工の精密さを説明している写真だが、近年、ウェッジのフェース面にはルールに違反しない範囲で メーカーによって多少の差はあるが このような小さな溝、マイクロ・グルーブの加工が施されているものが主流になっている。また、ルールで定められた規格ぎりぎりの丸味を持たせたエッジの精密機械加工の様子を この写真から 確認できるはずだ。
ところで、この新たな規制の導入は プレーヤーのレベルによって、段階的に行うという変則的なものでもある。ツアープロの選手は 2010年、トップ・アマチュアが 2014年、一般アマチュアには 2024年以降に適用される。トップ・アマチュアの選手は 古いクラブを使用していると 新ルールに違反する可能性が高いので要注意。また、一般のアマチュアでも 2024年以降はルール違反になる可能性があることを 頭の隅にでも置いておくと良いだろう。
なお、この新しい規制では、30°測定法 (30° Method) と呼ばれる溝のエッジの仕様に係わる計測方法が導入されているが、より詳細な規制について興味のある方は、USGA の以下のページから Groove Measurement Procedure Outline をクリックしすれば その詳細を見ることも出来るので そちらをご覧下さい。 » USGA - Test Protocols For Equipment