
♦ ソーラー発電|光熱費をゼロにできる?
自宅に太陽光発電をと思った時、誰もが考えることは ソーラーパネルの発電能力と削減できる光熱費のこと、そして、それを購入して取り付けるのに必要な費用のことだ。S-house では その屋根の大きさ そして カーボンニュートラルと言う目標を考え 9kW 位のパネルが良いと判断した。9kW だと年間 10,000kWh 前後は 発電するだろうし 200万円以内の予算で実現できるだろうと考えたからである。
どんな家にせよ 冬には 暖房と給湯のエネルギー消費量が大幅に増える。同時に 太陽光発電では 日照時間が短く 太陽が低いので その発電量は 少なくなる。かなり大きな能力のシステムでない限り 冬に必要な十分な電気を太陽光パネルからだけでは 供給できない。一方、春先から秋口までの期間は 逆に 発電量が増えて 電気の使用量が減る結果 そんなに大きなパネルでなくとも かなりの電気が余る。従って、カーボンニュートラルで 光熱費ゼロの家を年間ベースで実現するのであれば その発電量と消費量のバランスの取れたシステムが良いと言う結論になる。
一方、当然ながら、電気を効率良く使用しなければ 電気の使用量は大きくなる。また、夜間に電気を沢山使えば 太陽光発電の電気を自分で消費する割合が低くなるので 不経済になる。近年は 買電価格が売電価格を大幅に上回るようになっており その傾向は 今後ますます強くなると考えられる。そこで S-house では 冬の電力消費、特に、夜間の電力消費を抑えられる家にすることに配慮した。具体的には ヒートポンプと蓄熱の技術(詳細は こちら)を最大限利用できるよう工夫した。

そして 以上のような発電能力を確保した上で、勿論、オール電化の家にした訳だが、家を無駄に大きくせずに(省エネだけでなく 暮らしやすさの面も考慮して)限られたスペースを有効に広く使える工夫をした。その結果、蓄電池なしで 前述のエコ技術を最大限利用して 電力会社から買う電気の量をミニマムし(1年間住んで結果を検証する必要はあるが)買電コストが ¥32/kWh 程度であれば 光熱費ゼロ以上の家にすることができると考えた。
実は 2022年 12月の入居直前に発電設備の設置が完了したのだが それを稼働させることができない事態になった。経済産業省の認可が下りないために(手続きが複雑になり 以前に比べ 時間がかかるようになったとの由)業者には 2月中旬ごろまでは 稼働できないとも言われた。それでも 1月 11日に システムが稼働開始。一方、12月 3日からスタートした床暖房システムの試運転は 100% 買った電気で行ったことに加え、冷え切った土間コンクリートと建屋の壁や天井を温めた訳だから 10日間以上 ヒートポンプを 24時間稼働させた。そして、12月中旬から住み始め エコキュートも夜間炊き上げモードで稼働した結果、12月 1日から 1月 5日までの電気使用量は 1,053kWh にもなり その電気代は ¥42,206 になった。つまり、この時点で 電力コストは ¥40/kWh にまでアップしていた訳だ。
1月に入ってからも床暖房は 試験運転モードで運転し エコキュートも夜間のお湯炊き増しという 無駄が多い運転状況がしばらく続いたが、太陽光発電が稼働してからは 床暖房を 6時 - 18時と 6時 - 21時(寒い時)のタイマーモードの運転を使い分ける形にし、エコキュートも 昼間の炊き増し(太陽光発電連携)モードの設定に変更したことで 一時は 東京電力からの電気を非常に多く使用したが 1月中旬からは それなりに無駄の少ない システム運用ができるようになった。しかし、その後 強力な寒波が到来したこともあり 6時 - 24時 のような運転をすることも多くなり 結果的には 電力消費量がかなり増えてしまった。なお、システムの運転方法の詳細は ヒートポンプのページで行っているので そちらを参照下さい。
いずれにしても、1月は 日が短いし 太陽も低いので 良く晴れても 発電量は 25 〜 30kWh。一方、消費量は 30 〜 40kWhで 自家消費率が 40 〜 60%。お湯を沢山沸かす日は 週に2日あるが 昼間炊き増しているので 自家消費率こそ 高くなるが その分消費量が多くなる。他方、床暖房用のヒートポンプは 一日 12時間以上稼働しているので 自家消費率を 今以上に 上げるのは 困難である。床暖房の稼働が 8時間以下になる季節になれば 電気の消費量 特に 電気の購入量が 大幅に減少できるだろうが それまでは 消費量が多くなるだけでなく 自家消費率が低くなるという苦しい状況になってしまう。そんなことで、通年では 冬の電気代を補填する程度の売電収入があるものと考えていたが 買電の単価が上がったので それを達成できるかは 微妙な状況にあると言わざるを得ない。
現時点では 年間発電量 9,950kWh に対して 消費量が 8,850kWh、自家消費率 62% だと 買電単価 ¥33 で 電気代・ネットゼロになる計算だが、買電単価が ¥40 になれば 年間 ¥23,397 の持ち出しで、仮に ¥50 にまでなれば ¥57,166 もの赤字になる計算だ。買電単価が ¥50/kWh のような状況になれば 電力消費量を抑えて 節約しようという気持ちになるだろうが 10% まで電力消費量を減らせれば ¥50/kWh でも 電気代ゼロを達成できる計算になる。しかし、オール電化の家で 10% の節約は 簡単に達成出来るものではないだろう。
以上のような状況であるが、ここからは 1) の太陽光発電のテーマにに絞って 以下の観点から さらに詳しい説明をすることにしたい。
• 太陽光発電は 本当にエコか?• 必要な投資と見込まれる節約は?
太陽光(ソーラー)発電については 否定的なものも含め 色々な考え方があるようだが 住宅の屋根にパネルを設置すれば(北向きの屋根は 利用価値がないが)暮らしに必要な電気の多くを自作できるようになるのだから 低炭素社会の実現を目指すのならば 誰もが検討すべき選択肢である。ソーラーパネルは 製造と廃棄時に 二酸化炭素を排出することになるが それでも 発電電力単位の二酸化炭素排出量は 圧倒的に小さい。発電過程で発生する温室効果ガス排出量を二酸化炭素量(排出源単位)に換算した あるデータによれば 太陽光発電は パネルの寿命を 30年と仮定すると 17 ~ 48g-CO2/kWh(20年だと 26 ~ 72g-CO2/kWh)で 石油などの化石燃料の約 690g-CO2/kWh、日本の電力全体の平均値の約 360g-CO2/kWh と比べても圧倒的に少なく エコな発電方法である。加えて、設置後は メンテナンス費用と廃棄費用は 別にしても 電気代を支払うことが実質なくなることから 投資の対象としても魅力がある|詳細後述。
S-house には 南南東向きで斜度 17° の屋根 70㎡ 程があるが その 50㎡ 程を利用して 9.1kW の発電能力を持つソーラーパネルを設置した。屋根の大部分にパネルを設置することで生まれる 屋根の断熱効果も活用出来る。つまり、夏は 屋根への直射日光を遮り、冬は 外部への放熱を抑えることが可能になる訳だ。

NEDO の資料によれば 8kW のパネルを日当たりの良い南向きの斜度 30° の屋根に設置すれば 1日の発電量は 平均 22kWh、年間で 8,000kWh 程度になると言う。また、カナディアンパワーのシュミレーションでは 前述の組み合わせで 年間 10,000kWh 以上という試算もある。S-house の屋根は 南南東向きで 斜度 17° だから そこに 9.125kW のソーラーパネルを設置し その発電量は 年間発電量で 9,941kWh になると推定されている。因みに、1月の晴れた日には 25kWh 以上発電する日も少なくないが 冬は 太陽が低いので 屋根の斜度が 30° 位あれば 発電量は もう少し増えただろう。
因みに、オール電化の戸建ての場合の年間消費電力は 5,000kWh 程度、多くとも 8,000kWh 以下と言うことだが、環境省によれば 平成 29年 1世帯が年間に消費したエネルギーは 電気が 4,322kWh、都市ガス 204㎥、LPガス 30㎥、灯油 172リットルで(全国平均)その支出は 17.1万円であった。令和 5年の価格水準で 同量のエネルギーを消費すると 20万円を軽く超えるだろうから 平均的な家庭が 光熱費ゼロを達成すれば 年間約 20万円以上の節約ができる計算で 投資回収には 10年程を要することになる。しかし、余剰売電が 年間 3,000kWh 程度になれば 17円/kWh で計算して 年間 51,000円の売電収入が得られるから 投資回収期間は 2 〜 3年短くなる。投資回収に 7年前後の固定資産に投資をすることが経済的に得策か どうかは 他の投資物件の利回りとの比較で論じることになろうが 7年なら 比較的 魅力的な投資になると言えるだろう。
補足になるが、TEPCO のホームページによれば 2022/12月現在の一般家庭向けの電力料金 1kWh の単価は ¥19.88 (120kWh まで) / ¥26.48 (121kWh - 300kWh まで) / ¥30.57 である。因みに、夜トク 8 = ¥32.74 / ¥21.16 ; 夜トク 12 = ¥34.39 / ¥22.97 のプランもあるが 昼間に太陽光の電気でお湯を沸かすとなれば 夜トクのプランは 不利になる。いずれにしても、2022年末の時点で 電力各社が 30% 以上の大幅な値上げ申請をしていることから 益々 家庭用 太陽光発電は その存在価値を高めるものと思われる。
さて、S-house では IH 調理器、電子レンジ、PC、テレビ、冷蔵庫などに使用する電気のかなりの部分を電力会社から購入する電気で賄うことになるが ヒートポンプ稼働の半分以上を太陽光で賄えば 電気代は かなり安く抑えることができる。なお、蓄電池を設置することで 電気を購入することはなくなるが 年間の電気代は それがなくとも小さなものに出来るので その節約効果は 極めて 小さいものになる。月々の電気代は 平均すれば せいぜい ¥4,000 〜 ¥5,000 程度で それが 0 になっても 支払いの削減は 年間 ¥50,000 〜 ¥60,000。他方、売電収入が ¥30,000 ほど減るだろうから 経済的なネットゲインは 年間 ¥20,000 〜 ¥30,000 程度になる。¥200,000 程度で 十分な能力(例えば、5kWh 以上)の蓄電池が設置できれば 別であるが(ヒートポンプによる蓄熱の経済効果もあるので)現在の価格水準では 不経済と言わざるを得ない。
一方、近年は 軽の電気自動車やハイブリッド PHEV といった選択肢があり そうした車を購入する可能性が高いので その充電用コンセントを設置しておく。ただし、V2H のパワーステーションは 導入コスト(50 〜 100万円)が極めて高いので その点に関しては 現状 不経済と言わざるを得ない。ただ、S-house で 暫く暮らせば どのくらいの蓄電池があれば(準)自給自足ができるのかが分かってくるだろうから(補助金などのシステムを利用して 実質 20〜30万円位の投資で済むなら)その導入も考えてみたい。