経営学入門

Introduction

ビジネス経営学とは 企業 及び それに類する組織の効率的、効果的な運営のための理論構築を目的とする学問である。従って、経営学は 企業の経営者や管理者、また、そうした仕事を目指す人達が勉強すべき学問であることは間違いないが、我々の日々の生活にも 存外 有用な理論などを含んでいるので、そうした観点から、経営に縁のない人でも 経営学を 学んでみる価値は大いにあると言える。以前 もし 高校野球の女子マネージャーが ドラッカーの『マネジメント』を読んだら という書籍で その一端が紹介され 脚光を浴びたという例もある。

また、我々が毎日生活している社会の経済活動の中心的な役割を果たしている企業や大きな組織が どの様な論理をベースに運営されているかを より深く理解することは 当然 そうした社会の中で生きる個人の生活に大きな影響を及ぼすものだ。個人のキャリアや人生設計を行うにあたって役立つのは勿論のこと、世の中の仕組み、個人やグループの行動、人間関係に係わる疑問、また、まったく新しいことに挑戦すること 所謂 イノベーションの重要性などについて理解を深められる側面もある学問なので 経営や出世といったことに関心が 然程ない人にとっても 興味の対象になり得るものであろう。

米国では 企業経営を科学的アプローチによって近代化するという発想で 19世紀末に高等専門教育として経営学を大学院の修士課程で教える MBA (Master of Business Administration) プログラムが登場した。その後、経営学の高等専門教育の有効性が広く認識されるようになり、戦後から 現在に至るまで そうした教育と資格を持った実務者が多数輩出され 実社会で その力を大いに発揮してきた。その結果、米国では 個人のキャリア・パスにおいて MBA のような教育と資格が重要な役割を果たすという考え方が定着している。

一般的には 高度な統計学や数学などの理論を駆使した科学的管理法、組織論、会計学・経営財務学など経営の効率的運営に係わる学問、マーケティングなど価値の創造と競争原理に係わる学問 そして 経済学、金融学、国際ビジネス論など ミクロ、マクロ経済学的な学問 さらには それら全ての知識と理論を 総合的に駆使して どう企業が運営されるべきかということを研究する経営戦略論などを学ぶことになる。企業や組織の運営の成否は その組織の効率や効果的運営に左右されるのは当然だが それだけではなく 企業存続の本来の目的と手段を深く考える必要があり、マーケティングのような価値の創造と競争原理に係わる理論や経営環境を予測してプランニングを行うために必要な経済学、金融学、国際ビジネス論なども経営学の高等専門教育プログラムには含まれるのが 一般的である。

ビジネスの使命

まず、ビジネスは 誰のもので なぜ存在するのか、即ち、その所有と経営 そして ビジネスの使命という本質的な命題について考えてみよう。本来、ビジネスは人間が生きていく上で必要な生活の糧として 収入や利益を得る目的で行われるものである。そうしたことを効率良く行うために 分業 (division of labor) ということが一般的に行われるようになり、さらに、生産や物流の概念を根本から変えた技術革新が進み、沢山作れば安くなる という規模の経済 (economy of scale) が求められるようになって 専業のビジネスが企業という大きな組織によって行われるようになった。そうしたビジネスは 世の中の人が必要としている物やサービスを提供することによって代価を得て その結果として 利潤を得る。そのプロセスに必要な リソース、つまり、人、もの、金という経営資源を投入し 組織 多くの場合 会社組織を作って 利益を上げることを目的に ビジネス活動が営まれるようになった。

そうした中で 多額の資金を集めること、そして、投資した資金を引き上げることが容易、かつ、合理的に行える株式会社という企業形態を採る民間企業が主流になった。通常、株式会社は 多くの株主によって所有される訳で 企業存続の究極の目的は その全ての株主の利益追求になるが 突出した株主が居なければ (重要な経営事項の決定は株主総会で決議されるという形式の下に) 企業の経営は 経営者に委ねられるのが 一般的である。それは 所有と経営の分離と言われる現象で、今日、株式会社の経営形態として 一般的になっているものであるが、いずれにしても、通常は 企業の所有者の利益のために 企業が組織され運営される訳だから 企業は 経営者が自由にコントロールするものでもない。勿論、企業は そこに働く人の生活や社会的責任などを考慮して運営されるべきものではあるが 元々 そうしたことを 一義的な目的として組織されたものでもない。また、非営利団体の運営目的は 利潤の追求ではないが そうした組織を運営することで 継続的に損失が出るようなことになれば それらの存続は 不可能になるから 非営利団体でさえも 一般の民間企業と類似の運営目標を設定し 組織運営の効率化を図り 経営の健全化を追求することが その運営上の重要な課題になる。

一方、ビジネスが存続し得る理由は それが提供する物やサービスが その利用者である顧客にとって代価に値する効用 (utility)、即ち、消費することから得られる満足を与えることが出来るからである。通常は 同様な物やサービスを提供する企業があれば 消費者は その価値、即ち、効用 ÷ 代価が 最も大きくなるような選択をする訳で 売上を伸ばして成長し 利益を拡大出来る企業は 謂わば 消費者の投票による選挙に勝って当選した (当該製品 もしくは サービスの提供を任された) 議員のようなものである。

ところが、顧客の効用、つまり、企業が提供する何かを消費して得る顧客の満足には 往々にして 物やサービスだけでなく 安心や夢 また 雰囲気やその企業イメージと言うような やや曖昧で実体のないもの、即ち、インタンジブル (intangibles) も含まれるが その点を十分考慮せずに 事業を行っている企業が極めて多いのも事実だ。消費者が特定の個人商店でショッピングをする理由の中には 感じのいいお店だからとか、店員さんが誠実そうだから といった買い物をする直接の必要性やニーズとは 関係のない主観的な要素が含まれるのことがあるが そうした事実は 顧客がインタンジブルに価値を見出しているという好例である。レストランで通常は目に見えない 安全性や新鮮さをアピールできるシステムやプレゼンテーションを取り入れて成功しているというのも このインタンジブルに着目した発想と言うことが出来る。しかし、そうしたインタンジブルな要素については 経営学という学問で体系的に理論付けて論じられない側面や企業の経営指針のようなもので明示し難いという性格もあるから、忘れられがちで 企業が運営上の課題の一つとして それを認識さえしていないような状況になるケースもあるようだが 極めて重要なことである。因みに、企業だけでなく 個人が生きていく上でも インタンジブルは重要なファクターである。

このように、企業の経営は その運営の効率だけを追求しても成り立つものではなく まずは 如何に大きな価値を顧客に提供することが出来るかということに最大限の努力を払う必要がある。効率を良くして コストを下げ 低価格で物やサービスを提供することは 価値=効用÷代価 という数式の分母を小さくすることだから 価値を高める上で 重要なファクターではあるが 分子である 効用の部分を軽視していたのでは 顧客の最終的な判断基準となる 価値を高めることは出来ないということだ。特に、顧客にとっての効用は 物やサービスだけでなく、前述のインタンジブルを含めた トータル・エキスペリエンス (経験) に基づくものであるから 企業の経営者は勿論のこと そこで働く管理者から従業員一人ひとりまで 全ての人が そうした価値観と目標を共有出来るようなリーダーシップを経営者は発揮する必要があり それが経営者の最も重要な役割の一つなのである。ただし、同じ物やサービス そして インタンジブルを提供しても その効用と価値は 人によって (ニーズや価値観が異なるから) 違う訳で その理屈を 十分に配慮したマーケティングと従業員教育 及び 企業内のコミュニケーションを行うことが経営者の責務である。

少し寄り道したが、つまり、ビジネスの使命は(そのターゲットに定めた)顧客に対して トータル・エキスペリエンスという観点から より多くの価値を提供し その組織の運営を効率的に行うことによって より多くの利潤を 株主 もしくは 企業の所有者のために生み出すことであると言える。そして、企業は その使命を果たすことが出来るよう 組織を運営して行く上で有能な社員を それなりの条件で 雇い、教育し、経験を積ませて 育てるインセンティブがあると言うことだ。経営者やリーダーの重要な役割の一つは 組織内の個人やグループが組織の使命を達成するために それらの力を 望ましい方向に注力するよう導くことである。残念ながら、世の中にある組織のリーダーを務める人の中には その本来のリーダーの役割についての理解に欠ける人が居るのも事実である。とは言え、個人がどのような職について、どのように働くべきかを考える上で こうしたビジネスの使命と個人 そして グループの行動原理と リーダーシップと言ったことの意味について より深い理解を有することは 色々な場面で プラスに作用するはずだ。

経営学の意義と応用

このように 経営学は企業の経営を成功に導くために有用な知識や理論を学ぶための学問である。そして、その教育は 研究者を輩出するためではなく 企業経営の実務家を養成することを狙いにして行われるのが 一般的だ。優れた経営とは 単なる量的拡大を目指すことではなく、中長期的に維持可能なマーケットでの比較優位を確立して維持し それぞれの市場でリーダー的な役割を果たして その企業にとって好ましい事業環境を作り上げることができるような革新的な活動を行うことである。そうした企業のあるべき姿と自分のあるべき姿を 経営学の理論や知識を参考に考察することで どう行動すべきかという答えが見えてくることもあるだろう。企業の経営を成功に導くために有用なアイデアや手法は 個人がより良い生活を目指す上でも応用の出来るものだからだ。どうすれば 組織にとっての自分の価値、また、社会における自分の価値を高めることが出来るか、即ち、自分のキャリアや社会における役割を どう高めて行ったら良いのかといった疑問に対する答えを模索する上でも 経営学の知識は 必ず 役立つことだろう。

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